日本英学史学会報 No.110

学会報が届きました。なんとも充実のラインナップ。
和英語林集成デジタルアーカイブの紹介があったので、さっそく探訪。
http://www.meijigakuin.ac.jp/mgda/
こうしたデジタルアーカイブは益々充実してくることと思います。

一緒に全国大会のプログラムも届きました。初めての全国大会発表。要旨集に出した概要です。

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廣島中學校『英語之基礎』について

 明治7年創立の官立廣島外国語学校を前身とする廣島中學校(現広島県立広島国泰寺高等学校)では、その英語研究部の編纂による『英語之基礎』という書物を1915(大正4)年に出版している。この書は、「中学校に於て生徒の習得すべき単語を調査する必要と其単語に関する彼等の知識を一層正確明瞭ならしめ且彼等の日々の努力をして今一層有効ならしむべき工夫を講ずるの急務なるを考へ」「単語の組織的研究に着手し爾来歳月を重ね」た成果である。当時の中学校で用いられていた英語教科書を調査して単語を選択し、それらを独立記憶に訴えるべき “Independent Words”(第1章)と語源等の記憶の鍵を利用して覚えるべき “Dependent Words”(第2章)とに分け、アルファベット順に列挙している。調査対象の教科書は以下のものが挙げられている。
Asada's Practical R., Choice R., Educational R., Globe R., Graduated R., Imperial R., Inoue's New Eng. R., Kumamoto's Drill B., Kanda's Standard / Kanda's New Series R., Longman's R., Shioya's Language R., National R., New Fra R., New Imperial R., New School R., Royal R., Swinton's R., Saito's R., Star Series R., Union 4th R., World R.
第1章、第2章の単語リストでは、見出し語を「教科書に最多く散見せしもの、必要のもの」「教科書にあれども比較的記憶に不必要のもの、又は中学生は六ヶ敷過ぎるもの」「教科書になきもの、又は不必要のもの」の重要度によって字の大きさを変え、「計量、動、植、鉱、食物、病気、等の物名」はイタリック表示としている。見出し語とその訳語のほか、語源や掲載教科書、派生語への言及がなされた語も多い。さらに第3章以降、語源や接辞等によって分類したリストが掲載されている。
 『英語之基礎』は、赤祖父茂徳『英語教授法書誌』(1938)によって「我国に於ける標準語彙研究の最初の成果であろう」と評価されている。日本における英語基本語選定の歴史において、教科書語彙の調査は大きな役割を果たしてきたが、本書はその基礎を築く役割を担ったものの一つと言えよう。なお『英語之基礎』は出版の前年(1914(大正3)年)に東京で開かれた第2回英語教員大会において廣島中學校英語研究部が行なった報告に基づいたものであり、1916(大正5)年には姉妹編である『語原本位 英和辞典(単語記憶の鍵)』が出版されている。
 本研究発表では、『英語之基礎』の単語リストを分析し、そこで行なわれた語彙選定の実態を明らかにするとともに、現代への影響について考察してみたい。