広島英学史の周辺(19)

2月2日付けで日本英学史学会中国・四国支部のニューズレター53号を発行。会員の皆様へのウェブ配信、そして印刷・発送も終えました。
末尾のコラム「広島英学史の周辺」は今回で19回目。事務局を引き受けて丸5年。今年度のニューズレターも無事に4回発行することができました。いつも遅れ気味なので、申し訳ない思いで一杯です。以下、広島英学史の周辺(19)を掲載します。

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▼山口例会翌日、県立図書館の明治維新資料室を訪ねました。一室に集められた明治維新資料の中に、英学史に関する文献がたくさん揃っており、しかも奥の閲覧スペースは畳敷きに文机。調べ物をしながら、しばし至福のときを過ごしました。この空間を頻繁に利用できる人が羨ましいなあと、心から思います。
▼11月に大学共通教育の授業「地域の理解」の一環として、「庄原英学校130年―英学史から見た広島の教育」という1コマだけの授業を行いました。寺田芳徳先生のご研究を通じて出会った庄原英学校については、この地に赴任してから少しずつ資料を集め、研究発表や講座の機会に何度かまとめてきましたが、学部生向けの授業で話すのは初めてです。授業後の感想では、「英学」について初めて聞いたという学生が大多数でした。興味をもった学校の歴史を調べる課題を出したのですが、出身校の歴史などをまとめた面白いレポートが届き始めています。
▼少し前に、兵庫県の森さんという方から研究室にお電話がありました。森 琴石(もり きんせき、1843〜1921、明治期の大阪で銅版画・南画の分野で活躍した画家)の曾孫にあたる森さんご夫妻は、琴石の作品に纏わる膨大な調査研究を「森琴石.com」というウェブサイトに発表し続けていらっしゃいます。その琴石が深くかかわった出版人の一人に吉岡平助がいます。たまたま私が庄原ゆかりの森 修一による『ナショナルリーダー独案内』について書いた研究資料をウェブサイトで見つけ、その中に吉岡平助の名があったので、情報提供を求めてこられたのでした。
▼近江屋吉岡寳文館館主・吉岡平助が森 修一の著作以外にも英語関係の書物の出版に多く関わっていること、寺田芳徳先生の『日本英学発達史の基礎研究』に庄原ゆかりの人として紹介されていること、『明治人名事典 II 上』(1988)(この原本は『日本現今人名辞典』日本現今人名事典発行所, 1900)に、「大阪有名の書籍卸商なり其取引の盛なる関西地方に於て君の右に出る者なし」と記されていること、といったところが私の持つ情報です。そこで「こちらこそ是非教えてください」と今後の情報交換をお願いし、電話を切りました。またまたウェブサイトが結ぶ人の縁を感じたひとときでした。
香川大学図書館では、10月28日〜11月4日に神原文庫資料展「西洋語まなび事始め」が開催されました。毎年この時期に、神原文庫では所蔵の貴重書を展示する資料展が行われています。英学関係書もかなり収蔵されており、今回の資料展解説書『西洋語まなび事始め』では、オランダ語、英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語の語学書の紹介と解説が施されています。資料展の開催にあわせ、11月3日には竹中龍範先生のご講演「日本人はいかに英語を学んだか―幕末・明治初期のようす」が行われました(解説書、および竹中先生のご講演資料は、神原文庫のウェブサイトから入手可能です。
http://www.lib.kagawa-u.ac.jp/www1/kambara/tenji2007/tenji207.html
解説書で取り上げられた英学関係書は、慶応2(1866)年の『英吉利文典』(中浜万次郎が持ち帰った文法書The Elementary Catechisms, English Grammarの翻刻。薄いので「木の葉文典」と呼ばれた)から、明治3(1870)年の『挿譯理學初歩』(英語読本として使用されたFirst Lessons on Natural Philosophy for Children『理學初歩』の虎の巻)まで50点余。巻末にはそれぞれの写真も掲載されています。
▼この資料展冊子と、ご講演の音声を収録したCDを竹中先生にいただきました。フェートン号事件に遡る英学の歴史を、ユーモアを交え熱く語っていらっしゃいます。『挿譯英吉利文典』(「木の葉文典」の独案内)の解説では、各語に訳語を与え、数字をふってその語を並べかえる順序を示した「独案内」における読み方を取り上げられました。かつては原文(英語)の順に単語の訳を読むことを「直訳」、数字の順に日本語の語順で単語の訳を読むことを「意訳」と呼んだことを口頭で紹介され、蒙を啓かれた私は、思わず「おお」と声を上げました。
▼前号この欄で紹介した東 博通『北の街の英語教師―浜林生之助の生涯』について、「高師在学中の成績表」が掲載されていると書きましたが、成績表は浜林が広島高師の前に学んだ「三重師範」のものでした。お詫びして訂正させて頂きます。
▼今年は「冬らしい」冬が続いています。庄原ではセンター入試の日にも降り続きました。「何も大寒に入試をしなくても」と、あるブログに書いたところ(ここです)、翌朝の日経「春秋」にも入試時期の問題点が指摘されていました。
▼春よ来い、早く来い。こたつで丸くなりながら願っています。(馬)