英学史:ニューズレターNo.56

日本英学史学会中国・四国支部ニューズレターNo.56を発行し、ウェブ配信と郵便での発送と終えました。
末尾のコラム「広島英学史の周辺(22)」です。

長崎高等商業学校教授・武藤長蔵博士は、経済学史、鉄道論、交通論などの講義の際に、いつも数十冊の洋書を教室に持ち込んだといいます。文学や芸術にまでおよぶ「脱線講義」は有名で、そこから学生たちは世界や長崎、そして人生を学んだそうです(長崎大学広報誌「長報」vol.3 ( 2003年4月) より)▼「武藤文庫」を訪ねた際、ある先生から「牧野文庫のようだね」と声をかけられました。2004年の高知例会で見学した牧野富太郎博士の旧蔵書と同じように、今回も強い感銘を受けました。何かが胸の中でじわじわと盛り上がってくるような高揚感は、膨大な量の書物を目の当たりにしたから、だけではなさそうです。分野の異なる両博士に共通する「関係資料はすべて集める」という精神に痺れました。興味の幅広さが研究の厚みを増すのだと、改めて思いました。「武藤文庫」の一番奥の棚に『出家とその弟子』の英訳本を見つけて嬉しくなった私です▼シーボルト記念館では、彼が持ち出した日本地図を間近に見ました。そのガラスケースの前である先生から、地図を贈って投獄された高橋景保の研究者・上原 久氏(『高橋景保の研究』の著者)は庄原出身だ、と教えていただきました▼見学コースからちょっと寄り道して、立山防空壕長崎県防空本部跡)へ。8月9日の第一報は、この中に設置された知事室に届けられたそうです▼長崎の地で、英学と広島を考える3日間でした▼急に寒くなり、紅葉が一気に進みました。冬が近づいて来ます。皆様ご自愛のほど。福山例会でお会いしましょう。(馬)