虎の巻

虎の巻のことを米語で Cliff's Notes ということを知ったのは,Bob Greene の Be True to Your School を読んだときのことだ。(25年くらい前。)

改めて調べてみると,これは学習ガイドブックのブランド名で,ウェブサイトもある,
http://www.cliffsnotes.com/
という情報を,このたび,Ask Majo-P というサイトから得た。
http://www.geocities.jp/ask_majo_p/top.html


さて,「虎の巻」をどう扱うか,外国語を学び教える者として無関心ではいられない。

『ある英文教室の100年』(福原麟太郎監修,桜庭信之ほか編集,大修館書店,1978年)には,『英語教育』誌に掲載された座談会「英語を学び始めた頃」(1958年1月号)が掲載されており,その中で,東京文理科大学前教授・神保格氏は,「虎の巻礼賛」を展開している。

私が附属中学の先生になった頃,National Readers の訳注がでたので,それを生徒に持たせて下読みをさせて来させる。そうすると教室では英語の drill がたくさんできるわけです。だから虎の巻を禁止する必要はない。(中略)この idea を教えてくれましたのは佐伯好郎先生です。

佐伯好郎氏は広島県出身,東京高等師範学校や,その附属中学で英語を教えた。景教の研究者として知られ,戦後は広島県廿日市町の町長も務めた。内村鑑三と親交があり,『外国語之研究』(1899) の付録「英語自習独学の注意」は佐伯好郎氏によって書かれた。
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/861727

佐伯好郎氏による「リーダーの獨案内は有害なりや」という論考が『英語世界』第4巻第11号(明治43年9月,博文館)に掲載されている(pp.31-32)。たまたまネットオークションで入手した「リーダーの研究」特集号で目に止まった。

佐伯氏による,英語読本虎の巻すなわち獨案内の「奨励説」は次の通り。

立派なる参考書を生徒に供給して生徒は内で之に依りて翌日の日課を充分に下た調をする,そして教場では教師が之を基礎として色々質問を発して既習の智識を確実にし,更に進んで其応用や,練習を積ませて之を充分に消化せしめるやうにしなければならぬ。

今で言う「和訳先渡し」に通じるこの方法,上の神保氏と同様に,青木常雄氏も推進派であったことは,隈 慶秀氏の「教室での実践史にヒントを求める」(『英學史論叢』第18号, pp.37-39, 2015年)に言及されている。それらのルーツは,佐伯氏の『英語世界』誌上の論考であったか。
よく考えてみると,アクティブ・ラーニングを支える「反転授業」にも通じる。独習書研究を続ける上で,不可欠の視点であるように思う。