英学史支部ニューズレターNo.84

支部ニューズレターNo.84を発行。

今年度の支部総会・第2回研究例会(通算73回)の開催案内を掲載しています。
http://tom.edisc.jp/eigaku/reikai/reikai073.pdf

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今回の「広島英学史の周辺」(50回目です!)

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前号「英学史情報ひろば」に掲載した外山敏雄著『<明治から昭和まで>日本の英語教育を彩った人たち』(大修館書店, 2015年) を一気に読了した。面白い!▼英語教育史を専門的に扱う書物を「面白い」と私が感じるのは不思議ではないが,英語教育を外から眺める人たちも,本書に興味をそそられることだろう。著者の出身地・北海道にゆかりの人物を中心に,学校,辞書,雑誌,古書などが織りなす様々なエピソードを通じて,古き良き時代の英語教育を浮き彫りにしていく。著者が「札幌農学校草創期の英語人脈につらなる裾野は豊かに広がっている」(p.198) と述べるように,その影響の大きさを痛感する。英語人につらなる資料を集め,彼らを追い,「生(せい)のドラマ」(p. iv) を描き出そうとする著者の思いが,本文中の写真や挿絵からもじわじわと伝わってくる。カバーのデザインも象徴的だ。▼著者の取り上げる人物の中に,中国・四国にゆかりの英語人たちがいる。広島高師で学び,小樽高商で教えた濱林生之助。北海道に生まれ,呉中学校で教えた田中菊雄。『英語青年』を創刊した武信由太郎,Japan Timesを創刊した頭本元貞はいずれも鳥取県,『英語青年』を武信から引き継いだ喜安璡太郎は愛媛県の出身である。このほか,清水春雄,木方庸助,藤田仁太郎,小日向定次郎,須貝清一,井上十吉,石田憲次など,多くの人名を目にする。福山出身の福原麟太郎も忘れてはいけない。本書中に記された「英語人」がいったいどれくらいにのぼるのか,総数を数える衝動に駆られてしまう。▼私は,英語教育史関係の書物に出会うと,私家版の年表の改訂作業を始める。たくさんの固有名詞が年代とともに出てくると嬉しくなる。しかも本書のように,西暦と元号が並記してあるのはとてもありがたい。年表の改訂作業は,固有の年や項目の記述を充実させるだけではない。年表を眺め,そこに記された事柄の前後関係から「何か」を読み取る材料が補強される。本書の終章で展開される時代区分は,事柄の連鎖から「時代の変化」を読み取り,その特徴を一言で表現したものだ。▼中等教育明治30年前後を境に「訓読」から「文法・翻訳」期へと変わる根拠として,「教室でおこなわれる訳読(翻訳)が以前の時代よりも質的に向上する」(p.209) ことを挙げている。私は当時の独習書を研究中だが,独習書の記述に質的な変化が見られる時期と重なる。▼良いテレビドラマは,見終わった後に原作が読みたくなる。視聴者の側に,良いものを伝えてくれた作り手に近づきたいという内的変化が生じるからだろう。同様に,良い本は読者の心に化学反応を引き起こし,著者が執筆中に手にしたであろう参考文献へと向かわせる。私は本書の読書中に,福原麟太郎『チャールズ・ラム伝』を棚から引っ張り出し,苫米地英俊『商業英語通信軌範』,清田昌弘『一つの出版史』を古書店で購入した。▼ふと,本の背の「彩った」に目が止まった。読後に語りたくなる本は,日々の研究活動の彩りとなる。▼では皆様,福山でお会いしましょう。(馬)

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