英教史月報214号

日本英語教育史学会の月報214号を発行しました。今回の EDITOR'S BOX です。
▼会員の皆様から、様々な研究上の情報をお寄せいただいています。とても嬉しく、励みになります。今回も、最近落手した情報をいくつかご紹介します。
▼茂住實男先生の科研グループによる報告書(平成16〜18年度科学研究費補助金基盤研究C)「戦前中等学校英語科教員に期待された英語学力・英語知識に関する史的研究 ― 「文検」英語科の試験問題をとおして」を収録したCDをお送りいただきました。会員の庭野吉弘先生、岸上英幹先生、宮川眞一先生もメンバーとして加わっていらっしゃいます。内容は、「文検英語科の制度と試験」(茂住)、「「文検」における英国(西洋)風物知識の問われ方について ― 残された「文検」資料の調査から」(庭野)、「文検英語科試験の英単語 ― 戦前・戦後に発表された各種の語彙リストと比較して」(宮川)、「文検英語科と神田乃武」(岸上)と、各先生方による充実の論考に加え、文検にまつわる膨大な資料(出題された問題、参考書一覧、合格者一覧、出題語リストなど)が添えられた1,000ページに及ぶ報告書は、まさに圧巻です。さらにCDには教員免許状や辞令等の豊富な図版も収録されています。文検を研究するには「まずこの報告書から」となることは間違いありません。貴重な文献の完成を喜びたいと思います。
▼いずれの論考・資料とも大変興味深い内容ですが、私の研究分野から見て思わず「おお!」と声を上げてしまったのが、「文検英語科出題語リスト」。文検で使用された語の一覧(6,667語)を作成し、それを各種のコーパスや選定語リストと比較した渾身のデータは、A4版80ページにのぼります。宮川氏の比較分析によると、文検受験者には2万語以上の語彙サイズが求められたことが推定される、とのこと。語彙研究の分野では、今後この労作への言及が増えることと思います。素晴らしい成果に心から敬意を表します。
▼東 博通先生はこのほど、『北の街の英語教師 ― 浜林生之助の生涯』(開拓社、2007年)をご出版なさいました。昨年10月の月例研究会で発表され、参加者から出版を待ち望む声が寄せられていたのは記憶に新しいところです。東先生は奥様の大叔父にあたる浜林の生涯を追い、彼の研究業績を集め、膨大な資料をたいへん読みやすい「伝記」にまとめられました。三重師範、広島高師で学び、川内中学や福島中学で教え、小樽高商の教授となった浜林のことを、東先生は「英文学者というよりは英語教育者であった」と書いていらっしゃいます。本を読み進めながら、この北の街の英語教師・浜林のことを、急に身近に感じるようになりました。私はかつて、ある人物を追って論文にまとめようと苦労したことがあるのですが、東先生のご著書は「人物研究はかくあるべし」というお手本のように思えてきます。thorny pathをたどる英学生の手引きをreadableな形で試みた浜林の『英語の背景』に通じるものを感じます。
▼江利川春雄先生の『近代日本の英語科教育史』が今年度の日本英学史学会賞「豊田實賞」を受賞なさいました。おめでとうございます。10月20〜22日に大阪で開催された日本英学史学会の全国大会で発表され、授賞式が行われました。『近代日本の英語科教育史』は、学術的に優れた著作であることに加え、研究者や一般の方々の間に日本の英語教育史への関心を高める役割を果たした書だと言えるでしょう。心よりお祝い申し上げます。「江利川さんに続け!」を合言葉に、研究に精進したいと思います。
▼さて、一気に秋が訪れました。広島県北地方の山々は、あっと言う間に赤や黄に色づきました。今度の例会は広島での開催。九州の会員お二人の発表が予定されています。どうか皆様、奮ってご参加ください。西日本の皆さんはもちろん、東日本の方々も、どうかご来広を。紅葉の美しい季節です。秋の安芸をお楽しみに。(HB)