雪は続く

【英学徒の隠れ家日記より】

 駐車場にとめたままの車に積もった雪が、どんどん厚くなる。寒い部屋の温度を上げるには、コンロに鍋をかけ、ちょっとした煮物や、ご飯を炊くのがいちばん早い。電気の暖房機器では、こうはいかない。
 小さな炎を頼もしく思い、こんな一節に目がとまる。
 「何となし酒の海に浮かんでいるような感じがするのが冬の炉端で火に見入っているのと同じでいつまでもそうしていたい気持を起させる」「それが逃避でも暇潰しでもなくてそれこそ自分が確かにいて生きていることの証拠でもあり、それを自分に知らせる方法でもある」
私の食物誌 (中公文庫)
 手元にあるのは、写真のものよりも古い装丁の版だ。引用を続ける。

酒とか火とかいいうものがあってそれと向い合っている形でいる時程そうやっている自分が生きものであることがはっきりすることはない。そうなれば人間は何の為にこの世にいるのかなどというのは全くの愚問になって、それは寒い時に火に当り、寒くなくても酒を飲んでほろ酔い機嫌になる為であり、それが出来なかったりその邪魔をするものがあったりするから働きもし、奔走もし、出世もし、若い頃は苦労しましたなどと言いもするのではないか。我々は幾ら金と名誉を一身に集めてもそれは飲めもしなければ火の色をして我々の眼の前で燃えることもない。又その酒や火を手に入れるのに金や名誉がそんなに沢山なくてはならないということもない。