ロングマンス第参リードル独案内

umamoto2009-09-14

 写真は、蒲生 俊(訳)『ロングマンス第参リードル独案内』戸田秀直、明治21年11月(第6版、明治26年8月)。この書を著した蒲生氏は、ロングマンの第1〜3巻の独案内、4巻の直訳、ほかにウィルソン第1・2巻の独案内、ナショナル第4巻の直訳をてがけた人である。
 凡例は、次のように始まる。「本書ハ極メテ発音ニ注意シ専ラ正則ヲ主トスルヲ以テ発音ヲ示スニ当リ往々我仮名文字ヲ付スルニ苦シムコトアリ」
 英語の発音を仮名で表記するには、今も昔も苦労が伴う。ページをめくっていると、単語に付された仮名を鉛筆で修正した箇所が目にとまる。live(ライブ→リイブ)、wasps(ワスプス→ウォスプス)、tame(タイム→テーム)など。単語のスペルの誤植を正した箇所もある。
 こうした書き込みから、この本を手にした使用者のことを想像するのも楽しい。
 独案内は「独習書」とされる。そこに記された記述を修正することのできる独習者のレベルって・・・?! 
 こんな書き込みもまた、「独案内=ティーチャーズマニュアル」説の根拠になる。
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 前に独案内について書いた文中、「そうした点」と曖昧にしていた点を補足したい。
 http://d.hatena.ne.jp/umamoto/20090802
 今日の独案内の凡例に、次の一文もある。「一語ニシテ両訳アルモノハ( )ノ符ヲ用ヒテ之ヲ別チ又語多クシテ其意ノ解シ難キモノハ横線ヲ施シ数語ヲ連子テ単一ナル訳語ヲ下セリ」
 関係代名詞などは、一語が数回にわたり訳出されている。例えば、
 The hawk has very long and powerful wings, with which it can fly so swiftly that...
この文中の which は、
 「其ヲ」 以テ 其レガ 飛ヒ 能フ 「所ノ」・・・
という訳語の、「其ヲ」と「所ノ」の2箇所の訳語を担当している。表記はこんな感じ。

ホヰッチ
which
其ヲ(所ノ)
(21) (26)

 一方で、in--the--least「毫モ」や this--way「此方ニ」、Once--upon--a--time「或ル時一度」などには、複数の語でひとまとまりの訳語が与えられている。このことはつい最近のエントリーでも触れた。
 http://d.hatena.ne.jp/umamoto/20090903
 こうした「一対一」でない関係が、上の「そうした点」だ。
 発音であれ訳語であれ、彼我の言語に完全な「一対一対応」を求めるのは不可能だ。
 そして、その格闘の歴史を案内してくれるのが「独案内」、というわけなのです。